こんにちは、taikiです。
道場のクラスで習った技や教則動画で学んだ技を自分なりにアレンジして、改良していたりしませんか?そしてその改良を重ねに重ねてたどり着いた最終形の技をお持ちの方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
もともとの技を教えてくれた先生も改良に改良を重ねてたどり着いた最終回答なはずなのに生徒はなぜか独自で改良をしてしまいます。
それはなぜなのか、それはよいことなのか、どうしたらテクニックを無駄な試行錯誤なしの最短で学べるのかといった視点で考えてみたいと思います。
教則動画や道場で習うテクニックは先生が試行錯誤の末にたどり着いた結論である
黒帯は一般的には10年かかると言われています。黒帯の先生達が道場や教則動画で教えてくれる技は、先生達が10年以上のキャリアの中で数年間の試行錯誤を続けてたどり着いた最終形態の至極の技とも言えるでしょう。その過程では多くの失敗があり、ちょっといいなぁと思っても日の目を見ずに終わった部分もたくさんあるでしょう。
図にするとこんなイメージです。(今回の図は、『技術と創造の設計』という本を参考にしました。とっても面白い本です。)
結論までストレートにたどり着ければいいのですが、紆余曲折して、回り道しながら結論に辿り着きます。
数年分の試行錯誤の過程を全部話していたら60分のクラスでは言うまでもなく、90分のセミナーでも、120分の教則動画でも収まりきりません。
だからこそ先生方は、試行錯誤して得られた大事な部分を抽出して、結論をわかりやすくコンパクトに説明してくれています。
先程の図で説明すると遠回りをした部分をバッサリと切り落として、流れを整えます。
さらに最後に全体を整えて、わかりやすい説明を追加してコンパクトで直線的にまとめ上げます。これがクラスや教則動画で語られる形です。
我々はわかりやすくコンパクトに説明されたものを聞きながら、実際にやってみると技の仕組みがわかって、理解したつもりにはなるでしょう。
しかし、それをいきなりスパーリングで使えるかといったら、使えません。理解したはずなのに使えないのです。
それは当然といえば当然。
先生方が長年行ってきた試行錯誤をすっ飛ばして、結論を理解しただけで実戦投入出来たら、あなたはきっと黒帯もしくは、その技のマスターです。
「結論を理解する労力」と「試行錯誤をして結論を導く労力」を分けて考える
習った技を理解できたけど、スパーリングで使えない(≒習得できていない)ことは、「結論を理解する労力」を「試行錯誤をして結論を導く労力」と一緒だと勘違いしている可能性があります。
そこは別物なのです。
結論を理解する労力とは、この図のことです。
理解しやすいように理路整然とコンパクトになっているのですから、これを理解する労力はそこまで大きくはありません。
逆に「試行錯誤をして結論を導く労力」とはこちら。必要になる労力は大きく、時間がかかります。
この2つの労力は大きく違うはずなのに、人は同じに考えがちです。人様が苦労して身につけた技が、ちょっとわかりやすい説明を聞いたところで、そんな簡単に出来るようにはなりません。
技の習得には試行錯誤が必要不可欠
どんなに技を理解したとしてもその理解は表層の理解であって、自分なりに試行錯誤しないと習得にはたどり着けません。
クラスで習う技は結論から入りますが、本来は順番が逆です。試行錯誤をしてから結論を導いて、習得に辿り着きます。
ここを勘違いすると「クラスで習った技が使えるようにならない」となってしまうでしょう。↓下図の左から右へのプロセスを経てこそ身につくのです。
逆にクラスで習ったり教則動画で見た技をアレンジし、違う状況で応用した結果、先生の教えに辿り着き「最初から先生の言う通りにやっておけばよかった」と感じることもあるでしょう。
だったら、最初からストレートにコピーしたらいいかというとそうはなりません。理解まではいけても習得まではいけないのです。
与えられた結論は直線であっても、習得は直線ではありません。
トップ選手はこれを理解した上で、研究を行っている
この結論の理解と習得との違いは、過去に芝本先生がインタビューで語ってくれていました。
試行錯誤のプロセスはなかなか表には出てこない
ここまで読んだ方の中には、「試行錯誤のプロセスも開示してくれたら習得が早まるのではないか」と考える人もいらっしゃるでしょう。
残念ながら試行錯誤のプロセスを全部話し始めるといくら時間があっても終わらなくなってしまいます。しかし、必要に応じて、先生から直接聞くことは可能です。
芝本先生はこの事実を踏まえた上で、セミナーでは自分が行った試行錯誤もあわせて伝えて、「習得」へのショートカットをしてほしいと仰っています。
教則動画よりもセミナーに出たほうが習得が早い(気がする)理由がなんとなくわかりますよね。
みんな、セミナーに出よう!
伝承と伝統の違い
元ネタとなったこちらの書籍の最終章で作者が「伝承」と「伝統」について柔術に応用できそうなことを仰っています。
「伝承」と「伝統」の2つの言葉の意味を皆さんはわかるでしょうか。なんとなく雰囲気はわかるけど、細かい違いはわからないですよね。
ざっくりと言ってしまうと、「伝承」は形式のみを伝えることでありアップデートなし、「伝統」は受け継がれて常にアップデートされ続けます。
伝統
あるものを他に伝える,または与えることで,一般に思想,芸術,社会的慣習,技術などの人類の文化の様式や態度のうちで,歴史を通じて後代に伝えられ,受継がれていくものをいう。またある個人または集団,時代などの特性が受継がれていく場合をいうこともある。しかし形式のみが伝えられる場合は伝承と呼び,伝統とは区別して考えられることが多い。
出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
道場で習う技を試行錯誤してアップデートし続けてこそ、技術が受け継がれていくのであって、形式のみをコピーした「伝承」では日々進化している柔術環境ではいずれ廃れていって、古の技になってしまうわけです。
柔術家の皆さんが習った技をゴニョゴニョと改造して、自分用にカスタマイズするのは、伝統を受け継いでいるとも言えるでしょう。
決して、思考停止して「伝承」しているわけではないのです。
まとめ:試行錯誤して結論を導き出すことが習得である
道場のクラスや教則動画で展開される柔術のテクニックは、ある柔術家の試行錯誤の最終形であって、我々の最終形とは限りません。
先人たちの積み上げを活用しつつ、それを試行錯誤しながらさらに押し進める。それが出来ると「理解」から「習得」に昇華するのでしょう。
練習の中で自分なりの結論を見つけることが柔術の醍醐味とかもしれませんね。
習った技がうまく使えないとお困りの方は、試行錯誤の過程にいると前向きに捉えて、めげずに続けましょう。いつか花開きます。
以上「柔術家はなぜ習った技をゴニョゴニョと改造してしまうのか」でした。
参考文献
今回はこちらの記事をヒントにしました。とても勉強になる記事ですのであわせてどうぞ。
↑の中で引用されていた↓本を実際に私も購入して読んでみましたが、めちゃくちゃ面白かったです。難しそうな本ですが意外と読みやすかったです。
あわせて読んで欲しい
芝本先生のインタビューは非常に学びが多いので、何度でも読み返して噛み締めましょう。